相続における重要な制度のひとつである遺留分制度が改正され,令和元年7月1日に施行されました。
それまでは,遺留分を侵害された者(=遺留分権利者)が,侵害した者に対して減殺請求をした場合,それは形成権であって,遺留分を侵害した遺贈・贈与の効力が(侵害の範囲で)消滅し,目的物上の権利は当然に遺留分権利者に帰属するとされてきました。
それ故に生じる問題があり,例えば,侵害の対象となった贈与に不動産が含まれていた場合,減殺請求をした結果,遺留分権利者と受贈者とで不動産を共有するような事態が生じてしまったのです。これでは,結局,その不動産の共有状態を解消するために,多大な時間と労力を要することとなっていたのです。
上記を原則としつつ,改正前の民法には,受遺者又は受贈者は,減殺を受けた目的物の価額を弁償してその返還義務を免れることができるという規定もありました(改正前民法第1041条第1項)。
今回の改正では,この価額弁償という考え方が,前面に出てきたのです。
つまり,新しい制度では,遺留分を侵害された者は,侵害額に相当する金銭債権を取得すると規定され,これまでの物権的な形成権が金銭債権化され,「遺留分侵害額請求権」というものに変わりました(民法第1046条第1項 遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(~)又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。)。
したがって,減殺請求により当然に特定の財産を共有することになるような事態は生じなくなったのです。
これによって,特定の財産を遺贈・贈与によって誰かに取得させたいとする遺言者の意思がより尊重され,もしそれが遺留分を侵害したとしても,モノではなく金銭で解決することが基本になりました。
もし遺言作成を検討されている場合は,遺留分を侵害する遺言はトラブルの種になりますので,十分注意しましょう。
[令和2年9月]