最近,保佐人の権限について再確認する機会がありましたので,今回のトピックは「保佐」を取り上げます。
成年後見制度は,世の中にそこそこ浸透していると感じますが,その一つの類型である「保佐」そして「保佐人」についてご存知の方は,それほど多くないかも知れません。
ちなみに,令和2年中における後見開始申立件数が26,367件であるのに対し,保佐開始申立件数は7,530件だそうです(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」より)。
そもそも後見開始の対象者と保佐開始の対象者は何が違うのかは,次のとおりです。
後見開始 → 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
保佐開始 → 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者
保佐開始の審判を受けた者には,「保佐人」が付けられます。
そして「被保佐人」は,一定の重要な行為について,保佐人の同意を得なければならず,保佐人の同意を得ないでした行為は,取り消すことができる,ということになります。
その一定の重要な行為は,民法第13条第1項に規定されています。
1 元本を領収し,又は利用すること。
2 借財又は保証をすること。
3 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4 訴訟行為をすること。
5 贈与,和解又は仲裁合意(~略~)をすること。
6 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
7 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること。
8 新築,改築,増築又は大修繕をすること。
9 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
10 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(~略~)の法定代理人としてすること。
簡単な例ですと,被保佐人が単独で自動車を200万円で購入したとします。
このままでは,被保佐人は,この購入をいつでも取り消すことができます。
取り消された行為は,初めから無効であったものとみなされます(民法第121条)。
自動車の売主と被保佐人(買主)との売買が簡単に無効になるということは,被保佐人にとっては,判断能力が十分でないことによってしてしまった行為が無かったことになるのですから,被保佐人は保護されることになりますが,売主にとっては,売った後もいつ取り消されるか分からないという不安定な立場に置かれることになります。
そこで,保佐人がこの購入を同意することによって,売買が確定する(取り消すことができなくなる)ことになるのです。
[令和3年3月]