司法書士として日々相続関連の業務に携わっていると,戸籍謄本を手にする機会が多いのですが,戸籍にまつわる話をひとつ。
戸籍(除籍も含むものとして話をします)には,その人の身分関係等が記載されていますので,戸籍の情報は非常に個人的なものを含み,保護されるべき情報であると言えます。そのため通常,他人の戸籍謄本を取得することはできません。これは皆さんすぐに納得できるでしょう。
では,次の戸籍の戸籍謄本は取得できるでしょうか?
①自分の兄弟姉妹の戸籍
②自分の配偶者の親の戸籍
戸籍の請求に関する基本的な条文として,次の条文があります。
戸籍法第10条
第1項 戸籍に記載されている者(~略~)又はその配偶者,直系尊属若しくは直系卑属は,その戸籍の謄本若しくは抄本(~略~)の交付の請求をすることができる。
まず,この戸籍法第10条第1項にもとづいて検討してみましょう。
これに該当する場合は,原則として特に理由が無くても戸籍謄本を取得することができるのです。
具体的には,自分が記載されている戸籍,配偶者が記載されている戸籍,子や孫が記載されている戸籍,父母や祖父母が記載されている戸籍等(これらをA戸籍とします)です。
①の戸籍はどうでしょう。
兄弟姉妹という身分関係は,配偶者でも直系尊属でも直系卑属でもありませんから(兄弟姉妹は傍系血族),第10条第1項が規定する範囲内ではありません。しかし,A戸籍に兄弟姉妹が記載されていることがありますから,その場合は結果として①の戸籍を取得することができます。一方で,例えば兄弟姉妹が婚姻して新たに戸籍が編製されていた場合(つまり自分と別の戸籍に移ってしまった場合),その戸籍を(特に理由なく)取得することはできません。
②の戸籍はどうでしょう。
自分の配偶者の親から見れば,自分は「子の配偶者」ということになりますが,これはやはり第10条第1項に規定する範囲内ではありませんから(子の配偶者は直系姻族),配偶者の親の戸籍を直接,(特に理由なく)取得することはできません。ただし,配偶者と配偶者の親が共に記載された戸籍であれば,戸籍に記載されている者の配偶者という関係でその戸籍(=A戸籍)を取得することができますから,その場合には結果的に②の戸籍を取得することができます。
つまり,①②の戸籍とも,特に理由がない場合には,取得することができるものもあれば,取得することができないものもある,ということになります。
では次に戸籍法第10条の2第1項に基づいて検討してみましょう。
戸籍法第10条の2
第1項 前条第1項に規定する者以外の者は,次の各号に掲げる場合に限り,戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において,当該請求をする者は,それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
一 自己の権利を行使し,~(略)
二 国又は地方公共団体の機関に~(略)
三 前二号に掲げる場合のほか,~(略)
ここで詳しくは見ていきませんが,要するにこの条文は,正当な必要性や理由などがある場合に,A戸籍以外であっても取得できる旨を規定しています。
例えば,特に理由なく取得することができない①(兄弟姉妹)や②(配偶者の親)の戸籍であったとしても,相続関係が発生しているのであれば,正当な必要性・理由があるため,この条文によって取得することができるということになります。
このように,戸籍謄本の取得に関しては,個人情報の保護と,取得しようとする者の必要性等と,両面に配慮がなされた規定が設けられているのです。
[令和3年12月]