松本市で相続登記なら召田司法書士・行政書士事務所

過去のトピック

これまで取り上げたトピックがご覧になれます。

あなたのお悩みの解決の一助となれば幸いです。
当事務所は初回相談無料です。お気軽にご相談ください。

タイトル一覧
トピック 28 
自筆証書遺言の注意点
トピック 27 供託による休眠抵当権の抹消
トピック 26 不動産の時効取得
トピック 25 取締役の後見開始
トピック 24 相続放棄の熟慮期間
トピック 23 通信販売はクーリングオフできない?
トピック 22 相続させる遺言による預貯金相続手続
トピック 21 相続登記義務化の開始日
トピック 20 成年年齢引き下げ
トピック 19 戸籍謄本の取得
トピック 18 簡裁140万円という境界
トピック 17 登記識別情報
トピック 16 相続開始後10年
トピック 15 相続登記の義務化2(義務化前に相続が発生した場合)
トピック 14 境界線を越えた枝の切除
トピック 13 
相続登記の義務化
トピック 12 不動産と成年後見
トピック 11 保佐人の同意権
トピック 10 相続登記に関する免税措置
トピック 9 襲名と不動産登記
トピック 8 認可地縁団体の不動産登記
トピック 7 遅延損害金の法定利率の引き下げ
トピック 6 遺留分制度の改正(遺留分侵害額請求権)
トピック 5 長期相続登記等未了土地
トピック 4 遺言書保管制度が始まる
トピック 3 「相続放棄」と「相続分の放棄」と「相続した特定の持分の放棄」
トピック 2 債権の消滅時効の改正
トピック 1
 アパート賃貸借契約の保証人と極度額

トピック28 自筆証書遺言の注意点

相談を受ける中で、被相続人の自筆の遺言書が見つかったとお持ちになることがあります。
もちろんその場合には、家庭裁判所で検認手続をすることなります。相続人の方々は、当然遺言書の中身が気になりますよね。ただ、司法書士としては、不動産の特定ができているかという点も気になります。
検認された遺言書を拝見して、おそらくこれは専門家に相談せずに独力で作成したのだなと分かる場合があります。それは、不動産の特定が不十分なときです。
自分の遺言書を書く際に専門家に相談をしたのであれば、不動産の特定として必ず「所在・地番・地目・地積」「所在・家屋番号・種類・構造・床面積」を表記するよう教わるはずです。
しかし、独力で遺言書を書いた方の中には、不動産を特定するのに住居表示を使ったり、詳しい番地を書かなかったり、大胆な(慎重でない)記載を見ることがあります。
書いた本人や家族なら当然分かる・・・のかも知れませんが、重要なのは登記所が分かるかどうか、という観点です。特定ができなければ、その遺言書を使っての登記ができないことになります。
もし、自筆証書遺言を書こうとされている方がいらっしゃれば、やはり専門家に相談することをお勧めします。自分の考えた結果にならなければとても残念なことですし、遺された者はその遺言書を頼りにするわけですから、できるだけ慎重になりましょう。
[令和6年2月]

トピック27 供託による休眠抵当権の抹消

相続登記のご依頼を数多くいただいていると、土地の登記に明治・大正の抵当権が残ったままであることを時々見かけます。いわゆる休眠担保権です。
本来であれば抵当権の被担保債権が消滅した時に、抵当権の登記を抹消すべきであったものが、放置されてきたと考えられます。
この抵当権の登記を今から抹消しようとすると、通常の手続(土地の所有者と抵当権者が共同して抹消登記申請をする)では、大変困難な状況になっています。そもそも明治・大正の話ですから、当時の土地所有者や抵当権者はすでに死亡しており相続が(場合によっては何回も)発生しているでしょう。土地のほうはご依頼者が相続した物件ですから、何とか相続登記をして現在の正しい所有者名義にすることができますが、抵当権のほうは名義人に心当たりなく連絡の取りようもないことがほとんどであり、事実上、抹消登記は不可能かと思われます。
このような場合の解決方法の一つとして、不動産登記法第70条第3項(令和5年4月1日から第4項に繰下げ)の後段があります。

不動産登記法第70条第3項
第1項に規定する場合において、登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第60条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合(※)において、被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。


※登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができない場合

これによれば、土地所有者が、現時点で上記規定に基づく金銭を供託したうえで、単独で(抵当権者は手続に関わらずとも)抵当権の抹消登記ができるのです。ただし、この手続は供託すべき金額の計算や事前準備がけっこう大変です。このような事案でお困りでしたら、当事務所までご相談ください。
[令和5年2月]

トピック26 不動産の時効取得

不動産の所有権を取得する場面としては、「購入する」「相続する」というものが一般的でしょう。
稀なケースとして「時効取得」があります。
これは時効制度の一つであり、20年間(一定の場合は10年間)所有の意思をもって占有を継続する等した場合に所有権を取得するというものです。物が不動産であっても成立します。

民法第162条(所有権の取得時効)
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

もっとも、例えばAさんが不動産を時効取得したとしても、不動産登記が自動的にAさんの名義に変わるわけではありません。Aさんは今の登記名義人に対して、所有権を主張し、説得し、登記手続に協力してもらわなければなりません。これはそんなに簡単なことではありません。
Aさんの主張が本当に正しいかどうか、登記名義人を説得できるかどうか、登記手続に協力してくれるかどうか、といった様々な障壁を乗り越えなければならないでしょう。場合によっては、調停や訴訟といった手段をとる必要が出てくると思います。
そんな時、司法書士は、裁判書類作成で本人訴訟等を支援し(認定司法書士かつ訴額140万円以下なら代理人として調停・訴訟を行い)、和解調書・勝訴判決を用いてそのまま登記手続を行うことができます。このような理由から、不動産の時効取得については、司法書士に相談されることをお勧めします。
[令和5年1月]

トピック25 取締役の後見開始

株式会社の取締役である人に、成年後見や保佐が開始された場合、取締役の地位はどうなるのでしょうか。
従来、会社法では成年被後見人・被保佐人は取締役となることができないと定められていました。


会社法 第331条(取締役の資格等)
 次に掲げる者は、取締役となることができない。
 一 法人
 二 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上~(略)

そのため、取締役が成年被後見人・被保佐人になった場合は、「資格喪失」により取締役を退任することとなっていました。

しかし、この規定は削除(令和3年3月1日施行)されました。
では現在は、取締役が成年被後見人・被保佐人となっても、退任することなく取締役のままなのかと言うと・・・

少々ややこしくなりますので、「成年後見」と「保佐」とで分けて検討します。
まず「成年後見」についてですが、民法の委任契約に関する規定で次のように定められています。

民法 第653条(委任の終了事由)
 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
 一~二 (略)
 三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

この通り、受任者が後見開始の審判を受けたら委任が終了すると定められています。取締役は、会社からその取締役としての任務を委任されている関係にありますから会社法 第330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。)、その委任関係が終了すれば、取締役は退任するということになります。

一方「保佐」についてですが、保佐開始は委任の終了事由ではありません。したがって、取締役が被保佐人になったとしても、取締役の地位はそのままです。

つまり、まとめると
これまでは
 取締役が成年被後見人・被保佐人になる ⇒ 会社法上の資格喪失 ⇒ 取締役を退任
であったのが、
 1 取締役が成年被後見人になる ⇒ 会社との委任関係が終了 ⇒ 取締役を退任
 2 取締役が被保佐人になる ⇒ 退任しない
ということになったわけです。
[令和4年10月]

トピック24 相続放棄の熟慮期間

「相続の放棄」には「その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなす」という効力があり[民法第939条],例えば親が残した借金について子が責任を負わないようにするための強力な手段になります。
相続の放棄は原則として,自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません[民法第915条,第938条]
この期間は,熟慮期間と呼ばれます。熟慮期間の起算点が「被相続人の死亡時」ではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時」となっているのがポイントです。相続人が数人あるときは,熟慮期間は各別に進行することになります。相続の順位が第2順位・第3順位の相続人は,先順位の相続人がないこと又はその全員が相続放棄したことを知ってようやく熟慮期間が進行するのです。
相続人が相続の(単純・限定)承認や放棄を決断するには,通常,相続財産(負の財産を含む)の状況を把握して行うのですが,3カ月では足りないこともあります。そういう場合は,熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができます。相続の放棄(又は限定承認)の手続をしないまま熟慮期間を徒過してしまった場合は,「単純承認したものとみなす」と定められています[民法第921条]
3カ月という期間は意外とあっという間ですので,相続の放棄をご検討される場合は,早め早めにご相談ください。
[令和4年8月]

トピック23 通信販売はクーリングオフできない?

突然の訪問販売を受け,うっかり商品を購入してしまった場合には,いわゆるクーリングオフ制度が法定されており,きちんと手続をとれば救済されることはご存知の方も多いのではないでしょうか。
特定商取引法の定めるクーリングオフは,とても強力な制度です。

基本的には契約した日から8日以内に契約解除(クーリングオフ)する旨の書面を発すれば,特に理由はなくても契約を解除することができます[特定商取引法第9条]。クーリングオフによる契約解除では,販売業者は購入者に違約金等を請求することができず[同条第3項],商品の使用対価を請求することもできません[同条第5項]また,商品の引取り費用は販売業者の負担になります[同条第4項]

さて,現代社会では「通信販売」が日々大量に行われておりますが,この通信販売でもクーリングオフができると誤解されている人もいるのではないでしょうか。結論から言いますと,通信販売では,訪問販売等のクーリングオフとは異なる制度が法定されています。
通信販売業者は,広告表示において(ネット通販ではいわゆる最終確認画面においても)契約解除についての特約(いわゆる返品特約)を明示すれば,理由のない解除はできない(返品不可)とすることもできます。特定商取引法は,通信販売では広告に契約解除に関する事項(返品特約があればその内容)を表示しなければならないと定めていますので,健全な通信販売業者であれば返品について何らかの表示をしているはずですから,その旨確認(できれば保存)したうえで注文するのが良いでしょう。
もし返品特約が表示されていなければ,基本的に商品を受け取った日から8日以内であれば特に理由はなくても契約を解除することができます[特定商取引法第15条の3]。ただし,この解除の効果として,上記のクーリングオフのような販売業者に対する制限は定められていない一方で,商品の引取り費用は購入者の負担になると定められています[同条第2項]

商品に自信がある優良な企業であれば,返品可能とすることで信頼性やイメージが高まるということもあり,もはや返品可能が当り前ともいえる状況になってきています。そのため,ついつい通信販売全体にクーリングオフ制度があると勘違いしてしまうのかも知れません。そもそも一旦契約が成立すれば,理由もなく契約解除できないというのが原則なのに,クーリングオフが原則であるかのように捉えると危険です。通信販売では返品不可ということも十分あり得ますので,ご注意ください。
[令和4年6月]

トピック22 相続させる遺言による預貯金相続手続

被相続人が「私の遺産の全てをA(←相続人の1人)に相続させる」との遺言を遺していた場合で,Aが金融機関にその遺言書を見せて預貯金の相続手続を求めても,「他の相続人の実印をもらってください」とか「遺言執行者を選任してください」などと手続に応じてくれないことがあります。

これに対しては,令和元年7月1日施行の「民法第899条の2」を説明して,手続に応じてもらいましょう。

民法第899条の2【共同相続における権利の承継の対抗要件】
相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において,次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては,当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは,共同相続人の全員が債務者に対して通知をしたものとみなして,同項の規定を適用する。

Aの法定相続分が2分の1である場合,Aは金融機関に対し,残りの2分の1についても被相続人からAが相続したことを対抗したいわけです。そこで,民法第899条の2第1項の規定に則って対抗要件を備えるわけですが,預貯金は債権ですので,民法467条の規定に準じることになります。

民法第467条【債権の譲渡の対抗要件】
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。

この民法第467条の「通知」の方法を使って対抗要件を備えるのですが,「債権の譲渡」と異なり「相続による権利の承継」の場面では,「譲渡人」に当たる者が死亡しているので,実際上「譲渡人」は「共同相続人の全員」と考えられます。これでは,金融機関の言っていることが正しいことになってしまいます。しかし,他の相続人全員の協力を得なければならないとすれば,このような遺言をする趣旨が没却しかねません。

※「債権の譲渡」と「相続による権利の承継」の相関性
  譲渡人 = 被相続人(=共同相続人の全員)
  譲受人 = 受益相続人(A)
  債務者 = 債務者(金融機関)

そこで,民法第899条の2第2項の規定が効果を発揮するのです。すなわち「遺産の全てをAに相続させる」内容の遺言書を見せてAが相続手続を求めたときは,「共同相続人の全員(=被相続人=譲渡人)が債務者(=金融機関)に対して通知をした」ことになりますので,Aは金融機関に対して対抗要件を備えたことになるのです。

このようなケースでお困りでしたら,当事務所までご相談ください。
[令和4年4月]

トピック21 相続登記義務化の開始日

不動産登記法改正による相続登記義務化についてはこれまで何度か取り上げましたが,いよいよ施行期日が「令和6年4月1日」に決まりました。約2年後ということになりますね。

所有権の登記名義人に相続が発生した場合は,基本的に,3年以内に相続登記をしなければならなくなり,これを怠れば過料(10万円以下)に処されることとなります。

ただし過料は「正当な理由」がある場合は適用されませんし,また,法務省民事局は,過料の手続に入る前に催告して不履行状態の解消の機会を与えるとしています。「正当な理由」があると考えられる例としては,
・数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
・遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース
・申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース
などが挙げられています。(法務省民事局作成のパンフレットより)

ところで「相続税」については,その申告期限を違反すれば,税務署からペナルティ(延滞税など)を課されますから,市民としてはわりと相続税の申告手続に敏感になっているかと思います。
一方,相続登記はこれまで義務ではなかったですから,登記手続に対して気楽に受け止められていたと思いますが,今後市民の意識がどう変わるでしょうか。過料というペナルティよりも,きちんと手続した市民に対するご褒美(登録免許税の減額などの優遇措置)があればいいのにと思う今日この頃です。
[令和4年3月]

トピック20 成年年齢引き下げ

今年(令和4年)4月1日から,成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。
今年に入って報道される機会も増え,すでに広く一般に知れ渡っていると思います。
成年年齢に関する民法の条文は,次のとおりです。

民法第4条【成年】
年齢十八歳をもって,成年とする。

さて,この民法において未成年者のために設けられている規定で重要なものとして,次の条文があります。

民法第5条【未成年者の法律行為】
未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得,又は義務を免れる法律行為については,この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる。

民法第818条【親権者】
成年に達しない子は,父母の親権に服する。

成年に達すれば,これらの条文があてはまりませんから,今年4月1日以降は18歳以上であれば,親の同意なしに契約ができるし,親権に服することもなくなります。平たく言えば,これまでよりも早く大人になれる,ということですかね。
18歳・19歳の人たちにとってみれば,自分で決められるという自由が広がるわけですが,一方で,その責任も重くなります。政府広報等では,成年年齢引き下げに伴って消費者トラブルに巻き込まれないよう注意が呼びかけられています。
うっかり変な契約をしちゃったとしても,未成年者であれば,親の同意がなかったことで取り消すことができるのですが,成年になったらそれはできません。悪質業者がそこにつけこんで,新たに18歳・19歳をターゲットとする可能性があるのです。

もし新成人の方が消費者トラブルに巻き込まれてしまったような場合,未成年者であることによる取消はできないとしても,錯誤・詐欺・強迫を原因とする取消や,消費者契約法・特定商取引法による取消やクーリングオフをすることができるかも知れませんので,早めに相談しましょう。
[令和4年1月]

トピック19 戸籍謄本の取得

司法書士として日々相続関連の業務に携わっていると,戸籍謄本を手にする機会が多いのですが,戸籍にまつわる話をひとつ。

戸籍(除籍も含むものとして話をします)には,その人の身分関係等が記載されていますので,戸籍の情報は非常に個人的なものを含み,保護されるべき情報であると言えます。そのため通常,他人の戸籍謄本を取得することはできません。これは皆さんすぐに納得できるでしょう。

では,次の戸籍の戸籍謄本は取得できるでしょうか?
①自分の兄弟姉妹の戸籍
②自分の配偶者の親の戸籍

戸籍の請求に関する基本的な条文として,次の条文があります。
戸籍法第10条
第1項 戸籍に記載されている者(~略~)又はその配偶者,直系尊属若しくは直系卑属は,その戸籍の謄本若しくは抄本(~略~)の交付の請求をすることができる。

まず,この戸籍法第10条第1項にもとづいて検討してみましょう。
これに該当する場合は,原則として特に理由が無くても戸籍謄本を取得することができるのです。
具体的には,自分が記載されている戸籍,配偶者が記載されている戸籍,子や孫が記載されている戸籍,父母や祖父母が記載されている戸籍等(これらをA戸籍とします)です。

①の戸籍はどうでしょう。
兄弟姉妹という身分関係は,配偶者でも直系尊属でも直系卑属でもありませんから(兄弟姉妹は傍系血族),第10条第1項が規定する範囲内ではありません。しかし,A戸籍に兄弟姉妹が記載されていることがありますから,その場合は結果として①の戸籍を取得することができます。一方で,例えば兄弟姉妹が婚姻して新たに戸籍が編製されていた場合(つまり自分と別の戸籍に移ってしまった場合),その戸籍を(特に理由なく)取得することはできません。
②の戸籍はどうでしょう。
自分の配偶者の親から見れば,自分は「子の配偶者」ということになりますが,これはやはり第10条第1項に規定する範囲内ではありませんから(子の配偶者は直系姻族),配偶者の親の戸籍を直接,(特に理由なく)取得することはできません。ただし,配偶者と配偶者の親が共に記載された戸籍であれば,戸籍に記載されている者の配偶者という関係でその戸籍(=A戸籍)を取得することができますから,その場合には結果的に②の戸籍を取得することができます。

つまり,①②の戸籍とも,特に理由がない場合には,取得することができるものもあれば,取得することができないものもある,ということになります。

では次に戸籍法第10条の2第1項に基づいて検討してみましょう。
戸籍法第10条の2
第1項 前条第1項に規定する者以外の者は,次の各号に掲げる場合に限り,戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において,当該請求をする者は,それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
 一 自己の権利を行使し,~(略)
 二 国又は地方公共団体の機関に~(略)
 三 前二号に掲げる場合のほか,~(略)


ここで詳しくは見ていきませんが,要するにこの条文は,正当な必要性や理由などがある場合に,A戸籍以外であっても取得できる旨を規定しています。
例えば,特に理由なく取得することができない①(兄弟姉妹)や②(配偶者の親)の戸籍であったとしても,相続関係が発生しているのであれば,正当な必要性・理由があるため,この条文によって取得することができるということになります。

このように,戸籍謄本の取得に関しては,個人情報の保護と,取得しようとする者の必要性等と,両面に配慮がなされた規定が設けられているのです。
[令和3年12月]

トピック18 簡裁140万円という境界

司法書士には,140万円以下か140万円超かという境界がある,という話題です。

訴訟を提起する際には,訴訟の目的の価額(※)について注意しなければなりません。訴訟の目的の価額は,訴訟の申立ての際に納付すべき手数料の金額を算定するために用いられるほか,地方裁判所か簡易裁判所かの管轄が変わってくるからです。
※「訴訟の目的の価額」とは聞き慣れない言葉ですが,原告が訴訟で請求する金額がだいたいこれに当たります。

裁判所法 第33条
 簡易裁判所は,次の事項について第一審の裁判権を有する。
 一 訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求(~以下略)

このとおり,訴訟の目的の価額が140万円以下の場合は,簡易裁判所に訴訟を提起することになります(金額以外にも管轄を定める規定がありますので,これだけで全てが決まるわけではありません)。

訴訟が地方裁判所又は簡易裁判所のどちらで扱われるかは,司法書士の業務に大きく関係します。

司法書士法 第3条
 司法書士は,この法律の定めるところにより,他人の依頼を受けて,次に掲げる事務を行うことを業とする。
 一~五(略)
 六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。~略~
   イ 民事訴訟法の規定による手続(~略~)であって,訴訟の目的の価額が裁判所法第33条第1項第1号に定める額を超えないもの
   ロ(~以下略)
2 前項第6号から第8号までに規定する業務は,次のいずれにも該当する司法書士に限り,行うことができる。(~以下略)

これらの規定により,大まかに言うと,一部(※)の司法書士は,訴訟の目的の価額が140万円以下である簡易裁判所の民事訴訟について当事者の代理人として業務(=代理業務)を行うことができるのです。
訴訟の目的の価額が140万円を超えて,地方裁判所が管轄となると,司法書士は代理業務をすることができません。
もっとも,全ての司法書士は,裁判所(←簡裁,地裁又は家裁にかかわらず)に提出する書類を依頼者のために作成すること(=書類作成業務)が可能ですので,書類作成業務を通じて本人訴訟(※)を支援することができます。
※「一部」とは,いわゆる認定司法書士のことであり,当事務所の司法書士は認定司法書士です。
※「本人訴訟」とは,弁護士等の訴訟代理人をつけずに本人が訴訟を遂行するもの。
[令和3年10月]

トピック17 登記識別情報

昔は,不動産の登記名義人となった際には,登記済証(=いわゆる「権利証」)を所持することによって,次回の登記に備えていました。
しかし現在は,登記名義人になった者に対して法務局(登記所)から「登記識別情報」が通知されることになって,その「情報」が,いわゆる権利証の代わりをしています。※1


長野地方法務局松本支局管内は,平成18年2月27日から,この「登記識別情報」制度に代わっています。
もう15年も経つのですが,まだまだ一般の方々には馴染みが薄いようです。
一方「権利証」という言葉は皆さん広く聞き親しんでいたようで,ついつい私もこの言葉を使ってしまいます。しかし「権利証」は”書面”を連想させますが,実は”書面”そのものが重要であった時代から,とっくに形のない”情報”が重要な時代へと移り変わっているのです。

馴染みのない方々にとっては,そもそも「登記識別情報」の「情報」って具体的には何なのか,よく分かりませんよね。
この「情報」とは,「アラビア数字その他の符号の組合せ」です。※2
要は,パスワードと考えていただければ結構です。

新しく不動産の所有者となったら,次にその不動産を売ったり,抵当権を設定したりする場合,登記申請の際にその情報(=パスワード)を法務局に提供してくださいよ,という制度なのです。

当事務所では,「登記識別情報」が記載された「登記識別情報通知」という書面を法務局から受け取り,それを依頼者様にお渡ししています。「登記識別情報通知」は,情報(=パスワード)の部分に目隠しが施されていて,目隠しを剥がさないと中身を確認することができないようになっています。
私は登記名義人になった依頼者様に「登記識別情報通知」をお渡しする際には必ず「大切に保管してください」と助言しています。
”書面”より”情報”が重要な時代になったと言いつつも,結局のところ,「登記識別情報通知」という書面を大事に扱っている,というのが実情です。

※1
不動産登記法
(定義)
第2条第14号 登記識別情報 第22条本文の規定により登記名義人が登記を申請する場合において,当該登記名義人自らが当該登記を申請していることを確認するために用いられる符号その他の情報であって,登記名義人を識別することができるものをいう。
(登記識別情報の通知)
第21条 登記官は,その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において,当該登記を完了したときは,法務省令で定めるところにより,速やかに,当該申請人に対し,当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない。~略~
(登記識別情報の提供)
第22条 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には,申請人は,その申請情報と併せて登記義務者(~略~)の登記識別情報を提供しなければならない。~略~

※2
不動産登記規則
(登記識別情報の定め方)
第61条 登記識別情報は,アラビア数字その他の符号の組合せにより,不動産及び登記名義人となった申請人ごとに定める。
[令和3年8月]

トピック16 相続開始後10年

相続が開始すれば,3カ月以内に相続放棄,10カ月以内に相続税申告,1年以内に遺留分減殺請求など,一定の期間になすべき手続/行為がいろいろあります。
「3年以内の相続登記」も加わります(※まだ施行前です。トピック13と15参照)。
そして,改正民法(令和3年4月21日成立の民法等の一部を改正する法律)では,新たに「相続開始後10年」という期間が設けられました。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
民法第904条の3
前三条の規定は,相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については,適用しない。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する前に,相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に,遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において,その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に,当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
(※本条は,令和5年4月までに施行予定です。)

条文冒頭の「前三条の規定」とは,次の規定のことであり,特別受益と寄与分について規定したものです。
【特別受益者の相続分】第903条,第904条
【寄与分】第904条の2

特別受益・寄与分とは,大雑把にいいますと,共同相続の場合の,千差万別の各相続の場面において,単純に相続開始時の財産の法定相続分とするのみでは公平な相続割合とはならないような事情があるときに,「特別受益」「寄与分」という制度によって修正を図ろうとするものであり,各相続人の具体的な相続分を算定(修正)するために用いられるものです。
例えば,相続人の一人が「あなたには特別受益があるから,遺産は私が多めにもらえるはずだ」「遺産には私が寄与した分があるから,私が多めにもらえるはずだ」という具合に主張して,自己の具体的な相続分の拡大を求めることが考えられます。

今回新設された「第904条の3」は,この特別受益・寄与分制度の利用を制限するものであり,遺産分割しないまま相続開始の時から10年を経過すれば,家庭裁判所に遺産分割を求めた場合などの例外を除き,特別受益・寄与分の規定が適用されなくなります。

平たく言えば,10年も放ったままにして,今さら細かな修正は求めないでね,というところでしょうか。
これも,早めの遺産分割~早めの相続登記という流れを市民に促す一環といえるかも知れません。

とにかく,特別受益や寄与分を主張したい相続人にとっては,新たに期間制限が設けられることになりますので,注意が必要です。



なお,この規定の適用範囲は遡及するか,という点については,
『遡及します』

施行日前に相続が開始した遺産の分割については,次のとおり読み替えます(附則第3条)。
民法第904条の3
前三条の規定は,相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については,適用しない。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。
一 相続開始の時から十年を経過する時又は改正民法施行時から五年を経過する時のいずれか遅い時までに,相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
二 相続開始の時から始まる十年の期間(相続開始の時から始まる十年の期間の満了後に改正民法施行時から始まる五年の期間が満了する場合にあっては,施行時から始まる五年の期間)の満了前六箇月以内の間に,遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において,その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に,当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
※一部分かり易く省略等しています。

したがって,相当古い相続案件については,改正民法の施行時(令和5年4月までに施行される予定)から5年を経過すれば,もう特別受益や寄与分を主張することが難しくなります。
[令和3年7月]

トピック15 相続登記の義務化2(義務化前に相続が発生した場合)

トピック13「相続登記の義務化」について,新しい不動産登記法第76条の2が施行されるより前に相続開始があったものへの適用はどうなるの?との質問がありましたので,それについて説明します。

結論から申しますと,施行日前に相続開始があったものについても「相続登記の義務化」の適用がある,ということになります。

施行日前に相続開始があったものについては,次のとおり読み替えて適用がなされます(附則第5条第6項)。
不動産登記法第76条の2第1項
施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があったときは,当該相続により所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日又は施行日のいずれか遅い日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も,同様とする。
※一部分かり易く省略等しています。

つまり,義務化の対象は遡及するのですが,施行日前に相続開始があったものについては,少なくとも施行日から3年が経過するまでは,期限は訪れないということになります。それを過ぎれば,相続開始が施行日前か後かということは関係なくなります。

これは本当に影響力のある規定といえるでしょう。これまで義務でないため放置されていた相続登記未了の不動産に,いっきに網をかけることになるのですから。

ところで,一部の新聞報道では『土地相続登記 3年以内』などの見出しが見受けられましたが,この相続登記義務化は「土地」だけに限ったことではなく,「建物」も対象ですので,誤解のないようお願いします。
[令和3年6月]

トピック14 境界線を越えた枝の切除

民法は市民に身近な法律関係を規定しており,その中には「お隣さんの竹や木の枝が境界を越えて自分の土地に入ってきたときに何ができるか」といった生活感あふれる(!?)問題に関する規定もあります。

従前の規定はこうでした。
民法第233条第1項
隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは,その竹木の所有者に,その枝を切除させることができる。

これが,この度の改正により令和3年4月28日から2年以内に次の規定が施行されることになります。

民法第233条第1項
土地の所有者は,隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは,その竹木の所有者に,その枝を切除させることができる。
同条第3項
第1項の場合において,次に掲げるときは,土地の所有者は,その枝を切り取ることができる。
 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず,竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
 二 竹木の所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができないとき。
 三 急迫の事情があるとき。

これまでは,お隣さんの竹や木が境界を越えて自分の土地に入ってきたときは,自分で切ることはできず『お隣さんに切ってもらう』という構図でしたが,これでは,お隣さんが応じてくれない,お隣さんの所在が分からない,といった理由で解決できないことがありました。
その点,改正法では一定の場合に『自分で切る』ことができるようになりましたので,この問題で困っていた方々には朗報ですね。

ところで,境界を越えてきた枝を,自分の土地で作業して切除できるならいいですが,相手の土地に入らなければ切除できないような場合はどうなるのでしょうか,結局,泣き寝入りなのでしょうか?
大丈夫です。『境界を越えてきた枝を自分で切る』ために必要な範囲なら,隣地を使用することができるということも,改正後の民法209条に明記されました(※隣地を使用する前に予めお隣さんに通知しなければならないこと等も規定されていますので,ご注意ください)。

民法第209条第1項
土地の所有者は,次に掲げる目的のために必要な範囲内で,隣地を使用することができる。ただし,住家についてはその居住者の承諾がなければ,立ち入ることはできない。
 一 (省略)
 二 (省略)
 三 第233条第3項の規定による枝の切取り
[令和3年5月]

トピック13 相続登記の義務化

令和3年4月21日,民法等の一部を改正する法律が成立しました。これにより,不動産登記法が改正され,所有権の相続登記がついに義務化されることになります。

不動産登記法の該当条文は次のとおりです。
第76条の2第1項 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは,当該相続により所有権を取得した者は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に,所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も,同様とする。

上記規定の施行は,「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」(附則第1条第2号)とされています。※公布の日は令和3年4月28日

そして,この相続登記の義務の不履行については,過料に処せられることになります。
第164条第1項 ~(略)~,第76条の2第1項~(略)~の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは,10万円以下の過料に処する。

これまで,お客様から相続登記をしないとどうなるのですかと尋ねられたときに,「罰則はありませんが・・・」と前置きをしたうえで,様々な不都合が生じかねないことをご説明してきましたが,これからは,過料の可能性についてもご説明することになるでしょう。
[令和3年5月]

トピック12 不動産と成年後見

不動産の所有者が認知症になって,判断能力を失ってしまった場合は,その不動産は簡単には処分することができなくなります。
不動産を売るという意思を確認することができなくなるからです。
すると,所有者のご家族等の不動産に関係する人たちが,困った事態になることがあります。例えば,所有者が施設に入って,家は空き家になってしまったが,その空き家を処分しようにも・・・,というようなケースです。
このようなケースでは,成年後見制度を利用して,所有者に成年後見人が就き,その成年後見人が不動産の売却の手続をすすめる,という方法が考えられます。

ところで,司法書士として常々「相続登記はお早めに」と呼びかけているのですが,相続登記をせずに放置していたことによって,上記と似た困った事態に陥ってしまうことがあります。
それは,不動産の所有者が死亡しても名義を放置しておいたら,相続人の一人が認知症になった,という場合です。
不動産は死亡した人の名義のままでは売却することができませんし,相続人の一人が認知症では遺産分割もできない・・・。
ここでも,成年後見制度を利用して,相続人に成年後見人が就き,成年後見人が遺産分割をすすめる,という方法が考えられます。
ただし,成年後見人と被後見人が共同相続人である遺産分割は,利益相反行為になりますから,家庭裁判所に特別代理人(共同相続人でない者)を選任してもらい,その特別代理人が遺産分割をすすめることになります(後見監督人がある場合には,後見監督人が遺産分割をすることができます。
民法第860条,民法第851条第4号)。
[令和3年4月]

トピック11 保佐人の同意権

最近,保佐人の権限について再確認する機会がありましたので,今回のトピックは「保佐」を取り上げます。
成年後見制度は,世の中にそこそこ浸透していると感じますが,その一つの類型である「保佐」そして「保佐人」についてご存知の方は,それほど多くないかも知れません。
ちなみに,令和2年中における後見開始申立件数が26,367件であるのに対し,保佐開始申立件数は7,530件だそうです(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」より)。
そもそも後見開始の対象者と保佐開始の対象者は何が違うのかは,次のとおりです。
 後見開始 → 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある
 保佐開始 → 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である

保佐開始の審判を受けた者には,「保佐人」が付けられます。
そして「被保佐人」は,一定の重要な行為について,保佐人の同意を得なければならず,保佐人の同意を得ないでした行為は,取り消すことができる,ということになります。
その一定の重要な行為は,民法第13条第1項に規定されています。
1 元本を領収し,又は利用すること。
2 借財又は保証をすること。
3 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4 訴訟行為をすること。
5 贈与,和解又は仲裁合意(~略~)をすること。
6 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
7 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること。
8 新築,改築,増築又は大修繕をすること。
9 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
10 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(~略~)の法定代理人としてすること。

簡単な例ですと,被保佐人が単独で自動車を200万円で購入したとします。
このままでは,被保佐人は,この購入をいつでも取り消すことができます。
取り消された行為は,初めから無効であったものとみなされます(民法第121条)。
自動車の売主と被保佐人(買主)との売買が簡単に無効になるということは,被保佐人にとっては,判断能力が十分でないことによってしてしまった行為が無かったことになるのですから,被保佐人は保護されることになりますが,売主にとっては,売った後もいつ取り消されるか分からないという不安定な立場に置かれることになります。
そこで,保佐人がこの購入を同意することによって,売買が確定する(取り消すことができなくなる)ことになるのです。
[令和3年3月]

トピック10 相続登記に関する免税措置

国はいま,相続登記を推進しています。
トピック5で取り上げた「長期相続登記等未了土地」もそうですし,様々な方策に取り組んでいます。

その一つに,租税特別措置法第84条の2の3【相続に係る所有権の移転登記の免税】第2項の規定があります。
これは,ごく簡単に言うと,市街化区域外の土地で価額が10万円以下のものを相続登記する場合は登録免許税を課さない,というものです(この記事の掲載時点では,平成30年11月15日から令和3年3月31日までの措置)。
費用は安い方がいいに決まっていますから,われわれ司法書士は,依頼を受けて相続登記をする土地がこの免税措置を受けられるのかを必ず調べてから登記申請をします。

では実際のところ,この免税措置ってどうなのでしょう?

まず,市街化区域の土地が対象にならないのですから,いわゆる市街地は該当しません。例えば当事務所のある松本市本庄地区の土地は全て対象外です。
また,どれだけ安くなるのかと言いますと,土地の価額が10万円以下のものに限定され,相続登記の登録免許税の税率は1000分の4ですから,
10万円×0.4%=400円。

これが免税されるので,400円のお得・・・
ただし,あまりないことだと思いますが,価額が10万円以下の対象土地一筆だけを相続登記する場合は,そもそも登録免許税の最低金額が1000円なので,これが免税されるとなると1000円のお得になることも理論上はあるか・・・

残念ながら「すごく得した!」という気にはなれない微妙な金額なんですけど~( ;∀;)
[令和3年1月]

トピック9 襲名と不動産登記

不動産の相続登記等を手掛ける中で見かけた,少々ユニークなケースについてご紹介します。

一般的に,土地を代々所有し続けているような場合,その登記を見れば,祖父→父→本人というように,誰が受け継いできたのか一目瞭然になります。もちろん相続登記がきちんと行われていたとして・・・

ところで,稀ではありますが,親の名を代々襲名する伝統がある方々がいらっしゃいます。由緒ある家柄で,親が亡くなって先祖代々伝わる家業を継ぐような場合に,子が親の名を襲名(名の変更)する,というものです。

この場合には,登記の所有者欄に次のように記録されることがあります。
  所有権移転 山田太郎 大正〇年相続
  所有権移転 山田太郎 昭和〇年相続
  所有権移転 山田太郎 平成〇年相続
 (分かり易くするため簡略化しています)

なにっ,山田太郎さんから山田太郎さんに所有権移転???
予備知識なく,いきなりこれを見たら,すぐには理解できないかも知れません。
別の人物(親と子)が同じ名前ということは,家業の継続性を表示するには有効なのですが,人物を区別したいときには混乱の原因となります。

戸籍上,子が親の名に変更するのは,親が亡くなってしばらく経ってからだと思われますので(戸籍法第107条の2 正当な事由によって名を変更しようとする者は,家庭裁判所の許可を得て,その旨を届け出なければならない。),例えば,相続が開始して直ちに相続登記を行って,その後に氏名変更の登記をしたならば,次のような記録になります。
  所有権移転 山田太郎 大正〇年相続
  所有権移転 山田正男 昭和〇年相続
   氏名変更 山田太郎
  所有権移転 山田光男 平成〇年相続
   氏名変更 山田太郎
 (正男や光男は,襲名前の名前ということになります)

これであれば,襲名が行われていることがよりハッキリ理解できますね(⌒∇⌒)

もっとも,そもそも襲名は,不動産登記を使って明らかにするようなものではなく,戸籍を使って明らかにすべき事柄ですけどね。
このような伝統のあるお方は何かとご苦労が多いのではないかと拝察いたします。
[令和2年12月]

トピック8 認可地縁団体の不動産登記

今回のトピックは,私が経験した珍しい不動産登記についてです。
それは,認可地縁団体による地方自治法第260条の38第1項の所有権移転登記です。

まず,認可地縁団体とは,地方自治法第260条の2第1項に規定する市町村長の認可を受けた「地縁による団体」のことです。「地縁による団体」とは,条文によれば,「町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」をいいます。簡単にいいますと,認可地縁団体は,市町村から認可された自治会や町内会のことです。

次に,地方自治法第260条の38第1項の所有権移転登記とは,同項に「認可地縁団体が所有する不動産であって~~所有権の登記名義人又はこれらの相続人の全部又は一部の所在が知れない場合において,当該認可地縁団体が当該認可地縁団体を登記名義人とする当該不動産の所有権の~~移転の登記をしようとするときは,~~」と規定されているところの当該移転登記のことです。

これだけでは分かりづらいでしょうから,私の経験したケースでご説明します(事案を分かり易くするため実際の状況を簡略化しています)。

前提は次のとおりです。
  1. 認可地縁団体であるA町内会が甲不動産を所有している(もちろん固定資産税を毎年支払っている)。
  2. 甲不動産の所有権の登記名義は,昭和30年に,売買で取得したものとして町内の50名の住人の氏名が登記されており(※),その後何ら手が加えられないまま今日に至っている。(※…当時,町内会のような権利能力なき社団は登記することができなかった。)
  3. そこで,甲不動産の登記名義を,正しく「A町内会」としたい。

さて,甲不動産の登記名義を変更するには,一般的には,登記名義人である50名の方々に登記手続に参加していただき,全員から印鑑証明書を頂戴しなければなりません。もし50名の中で死亡した人がいらっしゃれば,その人の相続人の全員に手続に参加していただき,相続人全員の印鑑証明書を頂戴しなければなりません。
ちょっと想像していただければ,すぐにこれは大変なことだぞ!と気が付くでしょう。昭和30年に登記名義人となった50名は,当時一家の長となっていた方々でしょうから,だいたい40歳代~60歳代くらいの方が多く,若くても30歳くらいだったろうと推測できます。昭和30年から令和2年まで,すでに65年が経過していますので,50名の方々は,当時60歳なら現在125歳で,当時30歳だとしても現在95歳ということになります。当然お亡くなりになっている方がほとんどというわけで,その相続人を探さなければならないことになります。そうすると関係者は100名,200名という数に上ってきます。中には行方不明の人,相続人の絶えた人などが出てくることも十分考えられます。
つまり,甲不動産は,もう通常の方法では登記ができなくなっている状況なのです。

このような状況を救済するために,地方自治法が改正され(平成27年4月1日施行),認可地縁団体のための不動産登記の特例が設けられたのであり,それが同法第260条の38と第260条の39なのです。
特例の手続の手順は,次のようになります。
  1. 認可地縁団体が市町村に,2の公告をするよう申請する。
  2. 市町村が,認可地縁団体が行おうとする不動産の所有権の移転の登記について異議のある関係者は異議を述べることができる旨を(最低3カ月間)公告する。
  3. 異議がなかったときは,市町村は認可地縁団体に,そのことを証する情報を提供する。
  4. 認可地縁団体は,登記申請の際に3の情報を提供すれば,登記名義人が関与することなく,認可地縁団体のみで登記をすることができる。

条文によれば,一部の者(全員である必要はない)の所在が知れない場合であってもこの特例が利用できます。上記前提のA町内会の甲不動産において,1名の方について住民登録がないことの証明が受けられましたので,A町内会はこの特例を利用して,無事に登記名義を是正することができました。

以上のようにして,通常では諦めざるをえなかったであろう認可地縁団体関係の登記をすることができました。これは,昨今社会問題化している所有者不明土地問題と根っこを共通にする問題であり,今回,将来の土地利用に係る障壁の除去・登記制度の信頼性の維持といったことに僅かながら貢献できたのでは,と勝手に喜んでおります。
[令和2年11月]

トピック7 遅延損害金の法定利率の引き下げ

遅延損害金という言葉は皆様も聞いたことがあると思います。
支払うべきものを期限までに支払わなかった場合は,遅延損害金が発生します。
当事者が遅延損害金について特段の定めをしていなかった場合は,遅延損害金の額は,法定利率によると民法で定められています。

民法第419条第1項
金銭の給付を目的とする債務の不履行について,その損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率による。

実は,この法定利率が,令和2年4月1日から,年3%に引き下げられました(それまでは5%でした)。


民法第404条第2項
法定利率は,年3%とする。

元本100万円の債権があったとすると,2%の引き下げによって1年で2万円の違いが生じるのですから,けっこう影響ありますよね。

この法定利率は,今後ずっと3%に固定されたのではなく,市中金利の動向が3年毎に判定され,その変動状況によっては,変更されることがあります。
ただし,法定利率が3%であるときに遅延が始まった場合の遅延損害金は,その後に法定利率が2%や4%に変更されたとしても,ずっと3%で計算すればよいことになります。


当事務所の司法書士は,簡易裁判所の訴訟代理等を行うことができる者として法務大臣の認定を受けていますから,140万円までの金銭トラブルについてご相談できます。
[令和2年9月]

トピック6 遺留分制度の改正(遺留分侵害額請求権)

相続における重要な制度のひとつである遺留分制度が改正され,令和元年7月1日に施行されました。

それまでは,遺留分を侵害された者(=遺留分権利者)が,侵害した者に対して減殺請求をした場合,それは形成権であって,遺留分を侵害した遺贈・贈与の効力が(侵害の範囲で)消滅し,目的物上の権利は当然に遺留分権利者に帰属するとされてきました。

それ故に生じる問題があり,例えば,侵害の対象となった贈与に不動産が含まれていた場合,減殺請求をした結果,遺留分権利者と受贈者とで不動産を共有するような事態が生じてしまったのです。これでは,結局,その不動産の共有状態を解消するために,多大な時間と労力を要することとなっていたのです。

上記を原則としつつ,改正前の民法には,受遺者又は受贈者は,減殺を受けた目的物の価額を弁償してその返還義務を免れることができるという規定もありました(改正前民法第1041条第1項)。

今回の改正では,この価額弁償という考え方が,前面に出てきたのです。

つまり,新しい制度では,遺留分を侵害された者は,侵害額に相当する金銭債権を取得すると規定され,これまでの物権的な形成権が金銭債権化され,「遺留分侵害額請求権」というものに変わりました(民法第1046条第1項 遺留分権利者及びその承継人は,受遺者(~)又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。)。

したがって,減殺請求により当然に特定の財産を共有することになるような事態は生じなくなったのです。

これによって,特定の財産を遺贈・贈与によって誰かに取得させたいとする遺言者の意思がより尊重され,もしそれが遺留分を侵害したとしても,モノではなく金銭で解決することが基本になりました。

もし遺言作成を検討されている場合は,遺留分を侵害する遺言はトラブルの種になりますので,十分注意しましょう。
[令和2年9月]

トピック5 長期相続登記等未了土地

相続登記がされないまま長期間放置されて,土地の所有者が分からなくなることが社会問題化しています。

そこで国がとった対策のひとつが「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」です(以下単に特措法という)。

その第4章「土地の所有者の効果的な探索のための特別の措置」の第2節「特定登記未了土地の相続登記等に関する不動産登記の特例」に,相続登記に関する特例が定められています。

これによれば,登記官は,公共事業の起業者等からの求めに応じて調査した結果,

特措法第2条第4項の特定登記未了土地(※)に該当し,かつ
②所有権の登記名義人の死亡後30年を超えて相続登記等がされていない

土地について,さらに相続人の調査をしたうえで,「長期相続登記等未了土地」であることの付記登記を行ったり(法定相続人情報が作成されます),相続人に対して相続登記を促す通知(※)をすることができるのです。

もしかしたら,そのような通知を受け取った方がいらっしゃるかも知れません。そんなときはぜひ司法書士にご相談ください。

特例に該当する場合には,相続登記の申請に際し,相続を証する戸除籍謄本等の添付が省略できるといったメリットがあります。

通常,被相続人が死亡して30年超も経てば,戸除籍謄本等は数十冊,その取得手数料は数万円,調査期間は数カ月に及ぶ,なんてことはざらにありますので,その分の手間と経費がなくなるだけでも助かりますね。

一方で気がかりなのは・・・被相続人が死亡して30年超も経てば相続人が数十人に及ぶこともざらにある,ということです。つまり,全く知らない人たち数十人で共有し,持分は数十分の一しかないようなときに,現実的にどう対処するかが問題となるでしょう。

このような問題に接すると,やはり相続登記はきちんと速やかに済ませておくべきだな,と改めて強く思います。


※特措法第2条第4項の特定登記未了土地とは,所有権の登記名義人の死亡後に相続登記等がされていない土地であって,土地収用法第3条各号に掲げるものに関する事業を実施しようとする区域の適切な選定その他の公共の利益となる事業の円滑な遂行を図るため当該土地の所有権の登記名義人となり得る者を探索する必要があるもの,をいいます。

※相続登記を促す通知が来たからといって,当該土地が必ずしも公共事業の対象となるとは限りません。
[令和2年8月]

トピック4 遺言書保管制度が始まる

「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が令和2年7月10日に施行されました。
これにより,自筆証書遺言について,法務局に保管してもらうという新しい制度が加わることになりました。
遺言書保管制度といいます。

自筆証書は,文字通り自ら手書きした遺言書のことですが,書き上げた遺言書をどこに保管するかという点に,様々な問題が絡んできます。
家の中に置いておくと,常に紛失のおそれがつきまといます。
また,あまり考えたくないですが,隠匿というおそれもあります。死後,遺言内容に不満を持つ者によって遺言書を隠されてしまったとしても,すでに死亡した者にはどうすることもできません。
銀行などの貸金庫に預けるという方法もありますが,当然費用がかかります。

さらに,公正証書と違って,遺言書の保管者・発見者は家庭裁判所に検認の手続をとらなければなりません(民法第1004条)。

これに対し,新しくできた遺言書保管制度によれば,遺言書を法務局に保管してもらうので,紛失や隠匿のおそれが無くなりますし,この制度によって保管されている遺言書は,検認が不要になります(保管法第11条)。

保管の申請時に3900円がかかりますが,その後の保管料は不要です。
相続人や受遺者,遺言執行者は,相続開始後(=遺言者の死亡後),遺言書情報証明書(保管された遺言書の画像等)の交付を法務局に請求することができます。
遺言書保管制度によって,比較的簡便に,遺言を確実に遺すことができるようになりましたので,日本における新しい遺言のスタイルとして,これから広がりを見せるのか,興味深いところです。

ただし,この制度には次のような制約もあります。
○遺言者が自ら法務局に出頭して申請しなければならない。
  →移動に支障のあるような方は出頭がネックになります。
○遺言書用紙は,A4片面とし,一定の余白を設け,ページ番号を記載しなければならない。
  →過去に書いたものがこの規格に当てはまらない場合もあります。
○一旦,保管された遺言書について,保管の撤回をするにも,それなりの手続が要る。
  →保管の撤回と遺言そのものの撤回は別ものです。自宅で遺言書を保管していれば,自ら破いて捨てるという簡単な方法がとれるのですが…。
○遺言者は,自分の氏名住所本籍,受遺者・遺言執行者の氏名住所に変更が生じた場合には,法務局に届出なければならない。
  →頻繁に転居をするような方は,このようなメンテナンスが煩わしくなるかも知れません。
等々です。

遺言を遺すにあたって,その方法の選択肢が増えるということは,良い事だと思います。ですが,自分にとってどの方法が一番良いかは,専門家にご相談いただくのがより確かでしょう。
[令和2年7月]

トピック3「相続放棄」と「相続分の放棄」と「相続した特定の持分の放棄」

相続のご相談を受けて,共同相続が発生しているときに,「●●(兄弟など)からは放棄してもらった」とおっしゃる方が,時々いらっしゃいます。

以下,仮に相談者を「一郎」,●●の部分を「二郎」ということにして話をすすめますね。

さて,この際の『放棄』という言葉が何を意味しているのか,本当に理解している人は少ないかも知れません。
相談を受けた側としては,これが「相続放棄」なのか,「相続分の放棄」なのか,「相続した特定の持分の放棄」なのか,見極めなければなりません。

まず1つ目は「相続放棄」です。
相続放棄についてはコチラに説明していますのでご覧ください。簡単にいうと,二郎さんは家庭裁判所で手続をしたので相続人とならなかった,ということです。
この「相続放棄」の場合には,家庭裁判所発行の証明書で確認することができます。一郎さんは,二郎さんからその証明書をもらうべきでしょう。

2つ目は「相続分の放棄」です。
これは,非常に大雑把にいうと「自分は相続人として何も要らないよ」ということなのでしょうが,実は,民法上は「相続分の放棄」の規定がありません。
ですから,その解釈というか,取り扱いを慎重に行わなければなりません。
まず,遺産分割協議において,二郎さんが,確定的に遺産を何も取得しないと取り決めた場合が考えられます。この場合には,二郎さんに遺産分割協議(証明)書を作成してもらえばいいでしょう。作成済みなら話が早いです。
または,まだ遺産分割協議が行われてない段階で,二郎さんが,一方的に,自分は何も要らないと言っていた,という場合があります。この場合には,二郎さんに相続分放棄(証明)書を作成してもらうことが考えられますが,二郎さんの言う『放棄』が,自分以外の相続人たちに対して平等に放棄したのか,「一郎さんに対して放棄する」というような,相続分の譲渡と同様の趣旨だったのかまで確認しなければ,他の相続人たちの相続分がそれぞれどれだけ増えるのかについて不明確です。
やはり,遺産の帰属について全て二郎さん以外の者が取得する内容で作成した遺産分割協議(証明)書に,二郎さんから署名捺印をもらうのが一番確実です。または,その趣旨によっては,二郎さんに相続分譲渡証明書を作成してもらうのがいいでしょう。

最後に,3つ目は「相続した特定の持分の放棄」です。
これは,特定の遺産の持分について放棄するというケースです。
例えば,二郎さんは,『放棄』と言った際に話題となっていた特定の不動産のみを念頭に「自分は要らない」と言っただけかも知れません。もしかすると,今一度しっかり二郎さんに確認したら,「実家の土地建物は自分が住んでるわけじゃないし,その持分があるとか言われても,全然要らないんだけれど,預貯金がたくさんあるなら,それまでも要らないって言ったつもりはない…」と答えるかもしれません。この場合,二郎さんは,遺産のうち実家の土地建物に係る持分のみを放棄した(その他のことは不明…),と考えることができそうです。いずれにせよ,二郎さんの「要らない範囲」が曖昧な感じです。
「言葉足らず」とか,「自分の都合いいように解釈する」ということはよくあることですから,一郎さんは,二郎さんが「ああ,あれは要らないよ」とだけ言ったのを「全部放棄すると言った」と思い込んだとしても全く不思議ではありません。
このような場合には,一郎さんは,二郎さんにもう一度遺産分割協議を持ち掛けて初めから話し直したほうがよさそうですね。

以上のように,一口に『放棄』と言っても,いろんなケースが考えられますので,専門家に相談してきちんと整理してもらったほうがトラブルを防止することができるでしょう。
※2つ目と3つ目の『放棄』では,被相続人に消極財産(=債務)があった場合に,その債権者に対して債務のないこと(債務を相続していないこと)を主張することはできませんので十分ご注意ください。
[令和2年6月]

トピック2 債権の消滅時効の改正

令和2年4月1日の改正民法施行に関する話題をもう一つ。

大きな改正点の一つとして,時効に関する制度の変更がありました。
TOPIC2では,時効制度のなかでも債権の消滅時効に関する部分について,どのような改正があったのかを見てみましょう。

消滅時効とは,要するに,権利は未来永劫存続するものではなく,一定の時間の経過により消滅するという効力のことですが,改正民法は,債権の消滅時効について,
民法第166条第1項
債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
との原則を定めています。

原則には例外がつきものですが,今回の改正では,原則に対する例外が減らされていて,とてもスッキリとしたものになっています。
旧民法では,原則として「債権は,十年間行使しないときは,消滅する。」と定めながら,その例外として,
 医師の診療に関する債権は3年,弁護士の職務に関する債権は2年,生産者が売却した産物の代価に係る債権は2年,演芸を業とする者の報酬に係る債権は1年,運送賃に係る債権は1年,旅館の宿泊料に係る債権は1年,飲食店の飲食料に係る債権は1年,・・・
などのように,多くの短期消滅時効が設けられていたのです。

さらに,改正前の商法第522条においては「商行為によって生じた債権は,この法律に別段の定めがある場合を除き,5年間行使しないときは,時効によって消滅する。~」との規定があり,実際上,この商事消滅時効が適用されるケースも多かったのです。

ですが,改正民法においては,債権の消滅時効として上記の原則を定めたうえで,これらの例外(短期消滅時効・商事消滅時効)が廃止されました。(後述しますが,新民法においても例外はあります。)
ですから,今後は,数多くの例外に該当しないかどうかを検討する労力が削減されることとなります。

通常,債権者は,権利を行使することができるようになった時にそのことを知りますから,多くの場合は,そこから5年で権利が消滅するということになるでしょう。
昔の「10年」に比べると短くなっていますから,債権者の皆さん,うっかりしていると意外とすぐに消滅時効にかかってしまいますよ!
※改正法施行前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については,なお従前の例によります(平成29年法律第44号附則第10条第4項)。

改正民法における例外としては,次のようなものがあります。

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については,原則の「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」が二十年間に延長されます。(民法第167条

また,債権は契約に基づいて発生することが多いのですが,契約に基づかないような場合があります。その代表例が,不法行為による損害賠償請求権です。この不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については,旧民法にもあったように,以下のとおり例外が定められています。
民法第724条
不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

これについても,人の生命又は身体を害する不法行為の損害賠償請求権については,被害者を保護する措置がとられており,上記の「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」が五年間に延長されます。(民法第724条の2
[令和2年5月]

トピック1 アパート賃貸借契約の保証人と極度額

令和2年4月1日の改正民法施行に関する話題です。

春は新しいスタートを切る季節です。同時に引っ越しの多い季節でもあります。

そんな引っ越しの多い季節にちなんで,”アパート賃貸借契約の保証人”を取り上げます。

あなたは,家族や親戚がアパート等を借りるとき,保証人になってくれと頼まれたことはありませんか?
今回の民法改正で,このように賃貸借契約で保証人になろうとするとき,注目すべきワードがあります。それは,「極度額」です。この「極度額」とは,保証人が負担することとなる限度額のことです。
例えば,極度額が60万円なら,保証人は最高60万円まで負担させられる可能性がある,ということになります。逆に言うと,60万円を超えて負担させられることはない,ということでもあります。

事前に極度額を知っていれば,覚悟ができるし,安心もできます。

実は,アパート賃貸借契約における保証契約の内容は,借主の債務の全部を負担するというものがほとんどで,将来生じるかもしれない借主の損害賠償債務まで含んでいるのです。これでは,保証人が具体的に一体いくらの金額まで保証しなければならないのか不明でした。事と次第によっては,保証人が借主から想定外の高額な負担を迫られることがあったのです。

改正民法の「第465条の2」は,一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)で,個人が保証人となるもの(個人根保証契約)は,「極度額」を限度として責任を負うこととし,「極度額」を定めなければ無効である,と規定しています。
この規定は,個人の保証人を保護する観点から設けられました。ちなみに,法人が保証人となるケースは除外されています。

個人の保証人は,この「極度額」が定められることによって,自分が負担する可能性のある最大限の金額を事前に知ることができます。この点を踏まえて,保証人になるかどうかの判断ができるようになったのです。

ですから,今後,アパート賃貸借契約の保証人になろうとする方は,「極度額」をしっかり確認してくださいね!

もし,その金額を払うこととなる可能性があることを覚悟できなければ,保証人にならないほうが,後悔せずに済むんじゃないでしょうか。
皆さんの新しいスタートが素晴らしいものとなりますように。
[令和2年4月]

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